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ブッカー賞史上初となる2度の受賞に加え、2003年にはノーベル文学賞も受賞したJ・M・クッツェー。本書は、そのクッツェーがダニエル・デフォーの名作『ロビンソン・クルーソー』を下敷きに作り上げた、示唆に富んだ寓話的な物語だ。
全編を通して「人食い人種」という言葉が頻出するが、植民地時代、西洋人は自分たちの論理の外側にあるものにそうした言葉を当てはめ、排除してきた。本書のフライデイは舌を抜かれたアフリカ人という設定で、まさに西洋人にとって「外側にあるもの」であり、そのため親しい人間ですら彼が「人食い人種」ではないかという恐れを捨て去ることができない。言葉が及ばない彼を言葉にするとき、そこに、いやおうなしに暴力が入り込んでしまうのだ。文明や人種という視点から言葉が本来的に隠し持つ暴力性を引き出し、「言葉で世界を表現するとはどういうことなのか」という大きなテーマが議論されていく。
ストーリー性はあまりなく、語り手の女性をほかの登場人物による創作だと匂わせるなど、フィクションにフィクションが交錯する造りになっている。特に後半部は哲学の問答のような会話が連続し、抽象的だと感じる読者もいるかもしれない。だが、「パロディー」的設定とシンプルでわかりやすい文章で、読み手を認識の奥底まで引き込むその手腕は見事。言葉の大海原に漕ぎ出そうとするものには格好のテキストだ。(小尾慶一)